磁性材料の歴史を語る上で最もわかりやすい身近なものとして「方位磁石」があります。
この方位磁石は歴史から見ていくと航海時代にあげられる羅針盤が有名です。
羅針盤は地球の磁場を磁石によって導き方位を示す航海の必需品です。
理科や科学の実験でU字磁石に釘をつける実験をした記憶がある方も多いでしょう。
ひとつの磁石に釘が引き付けられ、その釘の先端にはもうひとつの釘がつく。
そして最終的に釘は何本も連なって磁石に間接的にくっつくようになります。
ここで面白いのはこの磁石に引き付けられていた釘を磁石から離しても釘同士がまだ引きつけ合い、なかなか離れない現象を確認できる点にあります。
このように磁石の磁性を物質自らが磁性を持つことを「自発性磁化」もしくは「自発性磁化が現れる」と言います。
※物質が磁性をもつことを自発性磁化と呼ぶ
但し自発性磁化が現れる物質はどのような物質でも良いという訳ではありません。
我々の生活の中で身近な物質であり、自発性磁化が出現しやすい物質こそが「鉄」なのです。
歴史上で使用されてきた磁性材料の中で羅針盤をまず最初にあげたのは、この羅針盤もまた鉄に磁性をもたせた磁性体物質である為です。
では、鉄を始めとする磁性材料がどのように分類されているのかについて確認してみるとしましょう。
磁性材料とは磁石のように磁性を活かした様々な機能を応用した製品を開発するために使用される文字通り材料の事です。
実際に磁性材料を使用した製品は既に私たちの生活に数多く普及しており、現在では欠かせない材料のひとつとなっております。
尚、磁性材料の種類を大きく分類すると以下の種類に分類することが可能です。
【磁性材料の主な種類】
★ハード磁性材料(硬磁性材料)
★ソフト磁性材料(軟磁性材料)
★磁歪材料
★磁気抵抗材料
★磁性流体
半導体分野では硬磁性材料はそのままハード、軟磁性材料はソフトと呼ばれるケースもある点を覚えておきましょう。
硬磁性材料(ハード)は永久磁石などで使用されているように保持力が高く温度などの条件変化が発生しても磁気特性が変化しにくい特徴を持つ磁性材料です。
世界的に見ても日本は硬磁性材料の開発において先進技術を保持しており開発のトップにたっている市場でもあります。
尚、性能が劣化及び変化しにくい特性は磁場を変化させた際に生じる「ヒステリシス曲線」の独特のカーブからも硬磁性材料の特性を確認することができます。
硬磁性材料は材料の原料から分類すると鉄を原料とする金属系磁石、そして鉄の酸化物であるフェライト磁石。
更に化学分野の周期表における希土類系に属する金属間の化合物である希土類系磁石に分類されます。
軟磁性材料の最大の特徴は永久磁石などに代表される硬磁性材料の磁性の不変性に対して磁性及び磁化が変化する点にあります。
磁化の反転作用はハード磁性材料では追従できない現在では不可欠とも言える磁気記録メディアへの対応が可能であることを意味しております。
わかりやすい例で言えば磁気記録系メディアの磁気ヘッドや変圧トランス、またモーターのコア部分にあたる磁心として使用されているのが軟磁性材料なのです。
変圧トランスで使用される珪素鋼板は軟磁性材料の代表でエネルギー変換効率が高く鉄損が少ない特徴を持ちます。
また透磁率が高いパーマロイ(ニッケル系の合金)やセンダストなども軟磁性材料に分類される磁性体材料です。
珪素鋼板は鉄に少量のケイ素を含有したケイ素合金を原料とする鋼板です。(炭素を含有していない為、ケイ素鉄と呼ぶケースもある)
磁性材料の分類では軟磁性材料に分類され高い透磁率が求められるモーターの回転子部分では方向によって透磁率が変化しない無配向性珪素鋼板(無方向性珪素鋼板)が使用されます。
磁性材料の中ではフェライト系材料と共に比較的安価な価格帯で製造が可能である点もひとつの特徴です。
日本の鉄鋼メーカーである新日鉄及び川崎製鋼は世界でもトップクラスの性能を保持する珪素鋼板の製造企業として知られております。
パーマロイは鉄とニッケルの合金で軟磁性材料の一種です。
尚、パーマロイと呼ばれるようになった由来は「Permeability(透磁率)」と「alloy(合金)」の2つの単語が成り立ちにあります。
一般的に知られるニッケル系合金に位置するパーマロイの合成比率はニッケル比率が「78.5%」に相当する合金の事を指しているケースが大半ではありますが広い意味でのパーマロイはJIS規格に定められている比率範囲で分類されております。
尚、パーマロイの最大の特性は添加する元素の分子の種類によって新たな特性の付加や性能の向上が図れる点にあります。
その為、耐腐食性を高めた磁気記録媒体ソフトや耐摩耗性を向上させた磁気ヘッドなどにパーマロイが多く使用されております。
我々の生活の中で磁性材料が現在最も利用されているのは磁気記録装置としての用途であると言えるでしょう。
磁気記録装置とは磁性体の変化パターンをデータとして格納する装置です。
パソコンのハードディスクや、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォンなどあらゆる電子機器媒体、モバイル端末の多くは磁気記録装置の存在が欠かせません。
尚、磁気記録装置は幾つかの磁気記録方式が存在します。
記録の読み込みには軟磁性材料であるパーマロイを原料とする磁気ヘッドが広く使用されており、パソコンのハードディスクやATMなどで使用するキャッシュカード、コンビニのポイントカードなども磁気記憶装置が利用されております。
データの格納方式は一昔前迄はVHSビデオに代表されるようにアナログ記録方式が主流であった時代があります。
しかし現在の磁気記録装置の多くはデジタル化されており、2011年にテレビの完全デジタル化が行われたように最も広く普及している磁気記録方式は完全にデジタル方式へと移行を遂げつつあります。
尚、デジタル放送は画質は綺麗でありますがデータ容量は従来のアナログ方式と比較すると圧倒的に大きくなります。
そのためテレビの録画などではレコーダー内蔵のHDD(ハードディスク)では容量が不足するため、テラ単位(1ギガの1024倍)の外付けハードディスクの需要が高まっております。(⇒1テラバイトの録画時間の目安)
磁性材料はその種類によって様々な分野で私たちの生活に関連していることが少しずつ見えてきたのではないでしょうか?
尚、現在は医療の現場でも磁性材料の活用が期待され研究が続けられております。
特にがん治療の分野においてはガン細胞が通常の細胞よりも熱に弱いという特徴を活かし、体内へ投与した磁性材料を交流磁場で加熱しガン細胞にダメージを与える治療法の研究が長年続けられております。
ガン治療における磁性材料ではフェライト系の硬磁性材料の発熱特性が注目されており、今後の外科手術に適応できないケースにおけるガン治療に大きく進展を与える可能性があるのです。
磁性材料の特性を応用した製品は多く存在しますが、磁性材料は鉄道分野においても大きな可能性が期待されております。
その代表とも言える乗り物がリニアモーターカーです。
現在リニアモーターカーと言えば「磁気浮上式リニアモーターカー」の事を指します。
この磁気浮上式リニアモーターカーの仕組みは筒状のモーターの仕組みをそのまま平面上の形状に変形し磁場の反発する特性を活かしたシンプルな構造の応用から開発が進めら現在の実用化に至った経緯があります。
尚、リニアモーターカーに使用されている磁性材料は添加剤としてマンガンの比率を高くした「磁化」されない鋼材を使用しております。
このように主にマンガンなどを添加させる磁化されない磁性材鋼のことを「非磁性鋼」と呼んでおります。
日本は、前述した非磁性鋼の開発及び製造分野において世界の中でもトップレベルの開発技術を保有しております。
現在、非磁性鋼の開発分野で世界のトップを走るのは日本とドイツです。
非磁性鋼分野は日本が世界的に技術貢献に務めている自慢の分野でもある点は是非把握しておきたいところです。